Coffee and Contemplation

海外ドラマや映画、使われている音楽のことなど。日本未公開作品も。

コロナのある世界のドラマの話

コロナのある世界を反映する作品がちょこちょこ出てきた時は、なんだかやるせない気持ちだった。フィクションの中くらい、現実逃避させてくれたっていいのに。でもいつまでもそうは言ってられない。感染対策をしなければ撮影がいつまでもできないし、特に時世を反映させたドラマなんかは、この状況を無視していれば着々と現実味を失っていく。都合の良いところだけいつまでも逃げている訳にはいかない。
 
 
最初に観たリモート撮影作品は、『Staged』(英BBC)だった。デヴィッド・テナントマイケル・シーンが本人役で自宅から登場し、新しい演劇作品のリハーサルを遠隔でやるという名目で、ビデオ通話で延々と話しているだけの会話劇だ。舞台経験豊富で気心知れた2人の掛け合いはそれだけで楽しく、ずっと似たような画面なのに飽きさせない。リハーサルは一向に始まらず、実質近況報告をしたり、作品クレジットでどちらを先にするか言い争ったり、自主隔離生活で描いてみた絵を見せあったり、彼らが席を外していると思ったらそれぞれのパートナー(ジョージア・テナント、アンナ・ランドバーグ)が出てきて世間話をしてたりする。
 
どんな立場でもコロナで大変な思いをしていることに変わりないだろうが、彼らの場合は経済的にはそこまで困っておらず、とりあえずこうしてリモートで仕事をすることもできる。そして素敵な家族がいる。この状況を面白おかしく描いてくれる作品ももちろん必要なのだが、どこか「いいなあ幸せそうで」と思ってしまう自分もいた。
 
 
そんな時に不意に出会ったのが『Mythic Quest: Ravens' Banquet(神話クエスト:レイヴンズ・バンケット)』(Apple TV+)だった。『It's Always Sunny in Philadelphiaフィラデルフィアは今日も晴れ)』のロブ・マケルヘニーが企画・主演するゲーム会社を舞台にしたコメディで、正直9話まではそこそこといった感じだった(別格のスタンドアローンエピソードの5話についてはまた今度)。ところがスペシャルエピソードとして後から配信された10話が感動的だった。
 
ゲーム会社なので彼らも経済的にはいつも以上に潤っているし、仕事もリモートでできる。しかし若くて独身の、コミュニケーションがあまり得意でないような社員も多い。リードエンジニアのポピー・リー(シャーロット・ニクダオ)は、隔離生活の中で仕事に没頭し、それが一段落すると何をすればいいか分からず精神的に参ってしまう。クリエイティブディレクターのイアン・グリム(マケルヘニー)がビデオ会議で映像をオンにしてくれないポピーの様子を案じて問いただすと、ポピーは暗い部屋の中で泣いてボロボロになった顔を晒す。イアンはロックダウン最中の街を歩いてポピーに会いに行く(2人が友人関係だからできることで、そうでなかったら実質上司のイアンが家に来るのは怖いが)。
 
もちろんコメディなので、孤独に苦悩する人だけでなく、この状況なりの楽しみ方も描く。ビデオ会議でお互いの画面が隣り合っていることを利用して物をやりとりしているようなフリをする遊びはマネしたくなったし、ゲーム会社なので画面もそれぞれのウェブカメラ映像だけでなく、ゲームのプレー画面やコーディング画面も活用していて楽しかった。リモート撮影には最も適した舞台設定かもしれない。
 
 
そうこうしているうちに、感染対策をしながらリモートでなく現場で撮影しているドラマも始まった。Walmartのような大手スーパーが舞台の『Superstore』(米NBC)は、まさにエッセンシャルワーカーとして仕事を休むことができないスーパーの従業員たちが主役のコメディだ。社会問題に切り込むことが得意なこの作品はシーズン6の放映が始まったばかりだが、トイレットペーパーやマスクを買い占める客、マスク着用を拒むいわゆるKaren、やたらヒーローと賛美され戸惑う従業員たち、コロナ対応で多忙な中のBLMデモも既に描いた。
 
2話はシーズン1からメインキャラクターの一人だったエイミー・ソーサ(アメリカ・フェレーラ)の卒業エピソードで、何シーズンも焦らしてエイミーとやっとカップルになったジョナ・シムズ(ベン・フェルドマン)との別れの回でもあった。そんなエモーショナルな回なのに、コロナのおかげでハグもキスも一切なし。この時が一番コロナを呪ったかもしれない。元店長のグレン・スタージス(マーク・マッキニー)と別れを惜しむシーンでは、ハグの代わりに2人とも自分を抱き締めていて笑ってしまった。
 
 
エッセンシャルワーカーといえば医療従事者も忘れてはならない。『Grey's Anatomy(グレイズ・アナトミー)』(米abc)のシーズン17は、同作の舞台であるグレイ・スローン記念病院がコロナ指定病院になって少し経ったところから始まった。もともとマスクをしたシーンが多かったので違和感も少ないが、防護服のような服装を見る度に事の重大さをひしひしと感じる。
 
医師たちは多忙で疲弊しており、患者をコロナで失う度にこれまでにない無力感に苛まれる。現実世界で有効なワクチンが開発されていないのに魔法のように繰り出すわけにもいかないので、この先暗くなる一方なのだろうかと心配になる。マスクの効率的な殺菌方法(紫外線ライト?のようなもので部屋中にぶら下げたマスクすべてを一気に殺菌する)を医師が提案する場面があったが、あれは現場でも採用されているものなのだろうか。
 
もともと医者が所構わずイチャイチャしているドラマなのでそこも心配していたがそういうシーンは健在で、逆に「あれ…こんなイチャイチャして…いいの…?」となる。検査をパスしていれば良いということなのだろうか。
 
予期していなかったのは、主要キャラがコロナ患者となったことだ。医療ドラマでしかもコロナ指定病院が舞台だからそうなる可能性は大いにあるのに、どこかまだ他人事に捉えていたのかもしれない。コロナで主要キャラが死んでしまったら破局どころの騒ぎではない。でも時世を反映するとはそういうことだ。
 
主人公メレディス・グレイを演じプロデューサーでもあるエレン・ポンピオからは、「シーズン17で終わりかも」との発言も出ている。コロナ禍の世界を描くのに疲弊してしまったということでなければ良いが。