Coffee and Contemplation

海外ドラマや映画、使われている音楽のことなど。日本未公開作品も。

ハリウッドはアジア文化の軽視をやめろ、餅の声を聴くな

ニューヨークが舞台のNetflixシリーズをハリウッドと一緒くたにして良いのか分からないが、とにかく今回文句を言いたいのは『Dash & Lily(ダッシュ&リリー)』だ。Netflixといえば進歩的な作品が多い印象があるかもしれないが、実はあえて前時代的でベタな作品も多い。タイトルにクリスマスと入っていればだいたいそうだ。一般女性が異国の地で王子様に見初められるとか、異国のお姫様が自分と瓜二つのドッペルゲンガーだったとか。
 
 
ダッシュ&リリーはタイトルにこそクリスマスの文字は入っていないが、全編を通してクリスマスムード全開のティーンドラマだ。そもそも原作がヤングアダルトなので、大味であろうことは想像していた。この作品で注目したいのは、ヒロインのリリーが日系だということだ。
 
今年は日系キャラ躍進の年だった。『The Baby-Sitters Club(ベビー・シッターズ・クラブ)』(Netflix)のクラウディア・キシ(モモナ・タマダ)は、おしゃれでクールでアートが得意で、ガリ勉で大人しそうな日本人のステレオタイプを破る画期的なキャラだ。後から知ったがその存在は原作小説の出版時から大変アイコニックで、Netflixではアジア系クリエイターたちがこのキャラへの愛を語るドキュメンタリーも配信されたほどだ。このドラマでは途中クラウディアの祖母が日系人収容キャンプについて語るエピソードもある。
 
 
 
『Never Have I Ever(私の"初めて"日記)』(Netflix)では、学校一のモテ男、パクストン・ホール・ヨシダをダレン・バーネットが演じた。役名に日本の苗字がなかったら、彼の見た目と名前だけでは、日系であることに気がつかなかったかもしれない。実際当初このキャラには日系の設定はなかったが、彼が日系であることを知ったプロデューサーのミンディ・カリングがそれを取り入れ、日本語をしゃべるシーンも入れたという。
 
 
 
それほど出番はなかったが、映画『GOOD BOYS(グッド・ボーイズ)』では小学校の人気者の男子が日系の設定だった。そして、この作品で小学生たちを追い回すなかなか激しい女の子を演じたのが、ダッシュ&リリーでリリー役のミドリ・フランシスだ。リリーは苗字こそ明かされないものの(お父さんは白人)、ジェームズ・サイトウ演じるおじいちゃんの苗字はMoriで、お母さんはジェニファー・イケダ、兄はトロイ・イワタが演じる。
 
序盤は特にリリーがアジア系であることがアピールされることはなく、服がすべて自分の手作りであるという以外は部屋も(テレビで見る)アメリカの普通のティーンエイジャーのものだ。めちゃくちゃ天真爛漫な朝ドラ系キャラだが、同年代の友達がいないらしい。小さい頃にマイノリティであるが故に受けたトラウマが原因らしく、大学生や大人とつるんで聖歌隊をやっていたりする。
 
大好きなクリスマスに家族が予定を入れてしまい一緒に過ごすことができないと知ったリリーは、恋人を作らねば、との強迫観念で(兄のゴリ押しもあって)従兄が働く本屋にあるノートを仕込む。ノートは文学好きでないと分からないヒントを次々解いていくと先に進めるゲームのようになっており、リリー好みの年頃の男子を選別するための質問も書いてある。これをたまたま見つけて解き進んだダッシュ(オースティン・エイブラムス)が、今度は自分からヒントを書き込み、リリーと会わないままノートを通してやり取りしていく。
 
ノートではさまざまな行動も指示される。ダッシュはある日、リリーの指示通りに“餅作り教室”に参加する。そこには英語を話さないらしい日本人のおばあちゃんたち。(追記:BGMはSukiyaki)リリーは日記に「言葉が通じないとはどんなことか体験してみて」と書いている。通じないというか、ダッシュは英語で話しかけるが、おばあちゃんたちはお互いにも一言もしゃべらない。日本語もだ。
 
人には身振り手振りというものがあるのに、誰にも教えてもらうこともできず、ダッシュは見よう見まねで餅(要は大福)を形作ってみる。すると、不出来だわね、といわんばかりの表情のおばあちゃんが、無言でその餅をゴミ箱に捨てる。ダッシュがノートに目を落とすと、そこにはリリーからのアドバイス
 
Listen to mochi.
 
餅の声を聴け。
 
餅がしゃべるのか? 唸るのか? ここをつねって、とかここを押して、と言うのか? それとも耳を澄まして禅の心を習得すれば、途端に菓子職人の手さばきが身につくのか? 日本人だからといって皆が物と会話しているわけではない。あんまりKonmariさんの番組を真に受けないでほしい。しかしそこはさすがハリウッド、ダッシュは餅の声を聴き取ることに成功し、きれいな形の餅を作る。おばあちゃんたちは、さっきまで無視していたのが嘘のようにダッシュのほうを向き、一斉に笑顔で拍手する。👏👏👏
 
続いて出てくる日本的なシーンは、大晦日の家族の食卓だ。厳かにお屠蘇をまわしているが、食卓には年越しそばが控えている。どのような順番で何を飲み食いしようと各家庭の勝手だが、わざわざこんなシーンを入れるなら、一般的なやり方をちゃんと調べてくれたっていいだろう。
 
リリーと両親は父親の急な都合でフィジーに引っ越すことになり、おじいちゃんは家族が集まる最後の機会にと、正月に仏教会を借りる。それまでこの家族がそんなに信心深いことを示す描写は何一つしていないのにだ。
 
そしておじいちゃんは、孫2人にお年玉を渡す前に、一人ずつこの一年間の講評を始める。そもそも高校生と大学生の2人はお年玉をもらうには大きすぎると思うが、それを差し置いても、お年玉をもらう前に「お前は大学にも戻らずフラフラして…」なんて儀式のように説教を聞かされるところなど日本では見たことがない。いやそういう家庭もあるのかもしれないが、あったとしてもそんな家父長制バリバリの家庭をさも日本のスタンダードのように見せてほしくない。
 
この作品は、原作者も白人だし、imdbを見る限りキャスト以外に日系人もいそうにない。いたとしても、少なくとも意見を出せる立場にはなさそうだ。リリーの設定が日系である必然性はストーリー上まったくなく、それでもそのような設定をあえて選んでくれるのは大いに歓迎したいが、数あるハリウッド作品の例に漏れず、都合良くエキゾチックな要素を大して調べもせず入れ込んだだけになってしまっている。
 
これがアフリカン・アメリカンラテンアメリカンの文化を描いたものだったら反発があったと思うが、英語圏では批判はほとんど見られない。
 
もともと「今年は日系representationが熱い」というテーマの記事を年内どこかで書きたいと思っていたが、この作品が180°方向転換させた。主演2人はひたすら可愛いだけに残念だ。
 
ベビー・シッターズ・クラブはシーズン2の制作が決定しているので、クラウディアの活躍に期待したい。