Coffee and Contemplation

海外ドラマや映画、使われている音楽のことなど。日本未公開作品も。

エイサ・バターフィールド君の雰囲気映画量産問題

彼が出ているなら、きっと私好みの映画だろう。エイサ・バターフィールド君にはそう思わせる魅力がある。なんというか、長身だけどひょろっとして童顔で、優しそうな雰囲気を纏っていて、文化系少年をやらせたら抜群の安定感があるのだ。
 
しかし、私は製作者たちがこれを乱用し、「彼を出してサブカルっぽいテーマと若者っぽい苦難と良さげな共演者を合わせればなんかそれっぽくなるでしょ」と安易な企画を連発しているという結論に至った。それは下記4作品を観てのものだ。
 
 

Time Freak

 
 
ソフィー・ターナーが彼女役とあらばこれは観ねばと若干浮足立って再生ボタンを押した『Time Freak』。これは序盤で脱落してしまったのであまりとやかくいう資格はないかもしれないが、ソフィーにフラれたエイサ君がうだうだしている下りが長いのだ。そして、2人には驚くほどケミストリーがない。ソフィーが大人っぽすぎるのだ。
 
普段は奥手だけど頑張って可愛いバーテンダーに声をかけてみる、失恋でうだうだしている、オタクとつるんでいる、タイムマシンを作っている、いかにもエイサ君なら良い感じに演じてくれそうな役だ。今や高校生のオタク役といえばこの人!という感じのスカイラー・ギゾンド君を親友役にキャスティングしたところも良くはあったのだが。
 

Then Came You / Departure

 
 
今度は同じ『Game of Thrones(ゲーム・オブ・スローンズ)』出身でもアリアとの共演だ。メイジー・ウイリアムズとの相性は非常に良く、恋愛を挟まない友達関係がとても可愛らしい。しかしこれは病気を使ったお決まりのお涙頂戴映画で、末期ガンの役のメイジーに破天荒なことを色々やらせたかったんだろうなというのが透けて見える。
 
エイサ君の役も悲惨な過去を抱えており、そのことやメイジーとの刻々と近づく別れに苦しむ。一方で例のごとくちょっと背伸びして(奔放なメイジーの後押しもあり)大人っぽい美人女性ニーナ・ドブレフにアプローチする。彼女にはタイタス・バージェス演じるGBF(Gay Best Friend)というおまけ付き。今回のオタクポイントは趣味の木彫りだ。
 
タイトルがなぜか2つあるが、『Departure』の方が分かりやすい。もうネタバレも何もないと思うので書いてしまうが、メイジーの天国への旅立ち、エイサ君の精神的成長、空港で働くエイサ君が実際に飛行機に乗る3つのDepartureがかけられていて、劇中最後にドヤァと表示される。
 

The House Of Tomorrow

 
 
今度は両親は飛行機事故で死亡、エコドームにおばあちゃんと暮らし、学校にも通わずホームスクーリングを受けている世間知らずなティーンという設定。ちょっと変化球で来たが、またいかにもじゃないか。ヴィーガンフードしか食べないし、音楽はクラシックかクジラの声しか聴いたことがない。エコドームにツアーで見学に来たうちの一人、ナット・ウルフと友人となり、彼の影響でロックに興味を持つ。
 
これもこの友人の病気を利用した成長モノで、彼は心臓病でいつ倒れてもおかしくないということが分かる。大変な設定が複数重なっていること自体は悪く言いたくないのだが(無理に分かりやすくしようとするのは現実でそういう状況にいる人に失礼)、この映画は両親の不在や若者の病気、エコ暮らしの現実等を掘り下げたいわけではなく、あくまでエイサ君の成長譚のための設定として消費しているだけだ。女性に不慣れな設定ももちろん健在で、友人の妹役であるモード・アパトーが優しく手ほどきしてくれる。
 

Ten Thousand Saints

 
 
極め付けはイーサン・ホークとの親子役。イーサンがこれまたきたぞ、というダメ親父チャンピオンな設定で、主人公が小さい時に浮気相手を妊娠させて家を出て行く。その浮気相手とお腹の子どもはどうなったのかも明かされず(中絶や養子に出すことを匂わせすらする)、主人公が大きくなってエイサ君になった頃には、(たぶん別の)ガールフレンドがいる。そしてなぜかそのガールフレンドの娘ヘイリー(父親はイーサンではない)をエイサ君の元に送ってくる。
 
大した助走もなくエイサ君とヘイリーが現れても2人とも現代の若者にしか見えないのだが、時代は80年代、エイサ君はハードコアにハマっており自身もかなりギターが弾けるという設定がある。父親のせいで荒れているのでドラッグもやる。が、そんなことはすぐ忘れてしまうくらいただ髪型がおかしなエイサ君にしか見えない(私くらいの年代だと00年代のエモ少年に見えてしまう)。多少グレてワルぶっているだけで、いじめっ子にはやられるし女の子には一途だし、だいたいいつものエイサ君だ。
 
序盤に悲劇が起こるので一気に重い展開になり、暗いトーンは続く。でも雰囲気はなんとなくcoming-of-age。悲劇に見舞われるのはマイノリティで、しかもその設定も肌の色を分かりやすくしたかったためだけのような気がして胸糞悪い。
 
途中でエイサ君が加わることになるバンドのメンバーたちはストレート・エッジという文化にかなり傾倒しており、エイサ&ヘイリーも影響を受けていく。このストレート・エッジに馴染みがないのでストーリーがすんなり入ってこないのか、当時こういうシーンで生きてたらもっとピンとくる話なのだろうかと思ったが、どうやらそうでもない。メンバーが傾倒しているのも半分はある事実の隠れ蓑にするためのようなもので、この文化にリスペクトのある作品とは言えない。
 
ヘイリーの母親/イーサンの現ガールフレンド役は『The Bookshop(マイ・ブックショップ)』のエミリー・モーティマーだが、役柄のせいかブリティッシュアクセントがこれ程ムカついた作品はなかった。ヘイリーの可愛さが唯一と言っていいぐらいの救いだったが、非常に不安定で女であることを都合良く利用しすぎた役柄だった。死や生を扱うのに話が雑すぎる。
 
要は『Sex Education(セックス・エデュケーション)』があって良かった、S3楽しみ!という話なのだが、セックス・エデュケーションでのエイサ君も、・大人しくて・オタクで・優しくて・でもちょっと反抗期で・女性に奥手なキャラの域を出ない。我々はエイサ君からのこの雰囲気の安定供給に頼りすぎなのだ。全く違う角度の演技が観られるのを楽しみにしながら、彼の出演作を観続けようと思う。