Coffee and Contemplation

海外ドラマや映画、使われている音楽のことなど。日本未公開作品も。

高慢と偏見マラソン8作+1

  1. Pride & Prejudice(プライドと偏見、2005年)

 

 

『ファイアー・アイランド』が『高慢と偏見』をベースにしているというので、あんまり覚えてないな…と2005年のジョー・ライト版を再見。キーラ・ナイトレイの勝ち気なエリザベスも、マシュー・マクファディンのダーシーさんのキラキラした切ない眼差しも完璧だ。二人の心の動きがコンパクトな中にも一番うまく描かれていると思う。ロザムンド・パイクキャリー・マリガン、タルラ・ライリー、ジェナ・マローンのベネット姉妹は今観ると一層豪華で楽しい。

 

  1. Fire Island(ファイアー・アイランド、2022年)

 

コメディアンのジョエル・キム・ブースター脚本・主演。遊び人で読書家、看護師の主人公ノア(エリザベス)と親友のハウイー(ボウエン・ヤン、ジェーン)、ルーク(マット・ロジャーズ、リディア)、キーガン(トマス・マトス、キティ)は毎年恒例のファイアー・アイランドへのバケーションに出かける。マーガレット・チョーが旅先の宿主兼皆のお母さん的存在(=ベネット夫人)だ。

 

旅先で一行よりずっと高級な別荘に泊まっているのがチャーリー(ジェームズ・スカリー)と友人で医師のウィル(コンラッド・リカモラ)とクーパー(ニック・アダムス、キャロライン)。ウィッカムさんにあたるデックス(ゼイン・フィリップス)も登場する。

 

最初からジェーン・オースティンの名前を出してリスペクトを入れつつ、でも「ヘテロ規範強すぎるよね〜」とツッコむのも忘れないところ、そして全編通してゲイキャラクターばかりで皆楽しそうにしているのが最高だ。無理に保守的な部分(母親が娘全員をとにかく結婚させようとするとか)を踏襲せず、うまく現代に落とし込んでいる。それでいて、ダーシーさんはちゃんと雨にも打たれてくれる(小説を読んでないので雨に打たれるシーンが元々あるのか知らないけど)。こちらのダーシーさんも、仏頂面とコミカルなところ、デレデレするところちゃんと全部やってくれるので、今のところマシュー・マクファディンと共にダーシーさん選手権同率一位を併走(?)している。

 

おとなしめで恋愛に積極的になれないハウイーとノアの友情も大変かわいい。ルークとキーガンがただのアホな兄弟でなく、ちょっと騒がしくてやらかしがちだけど対等な友人になっているのもとても好きなポイントだ。あとブリトニーの曲の使い方が正しい。

 

 

  1. Pride and Prejudice and Zombies(高慢と偏見とゾンビ、2016年)

 

友人とウォッチパーティーで観るのにこれほど最適な映画があっただろうか。(いや、ある。その名をバーフバリという)もっとゾンビを取り入れるのに合わせてストーリーを変えてもよかったんじゃ?!と思うほど高慢と偏見だった。姉妹が勇ましく武器を取り出す度に皆で「キター!!!」と爆笑した。私は先に紹介した2作を観た直後だったので比べてその忠実さに笑ったが、『高慢と偏見』初見の友人たちもそもそものプロットに大盛り上がりだった。

 

リリー・ジェームズのエリザベスはさすが可愛いし強いし大変良いのだが、個人的にはこのダーシーさん(サム・ライリー)はずっと仏頂面すぎる。堅いなりに情熱を見せてほしいのだ。チャールズ・ダンス(ベネット父)やレナ・ヘディ(キャサリン夫人)も出してくるあたり、いかにも『ダウントン・アビー』と『ゲーム・オブ・スローンズ』が流行っている時代に作ったなという感じがする。しかし、マット・スミス演じるコリンズさんのクセが強すぎてその他全員を食っていたと思う。

 

あと、中国とか日本で修行したという下りは全然いらなかったと思う。日本刀使いこなせてない。

 

  1. Bride and Prejudice(原題、2004年)

 

 

ボリウッド版があると聞いて観ないわけにはいかない。ラリータ・バクシ(Lalita Bakshi、エリザベス)を演じるのはインドのスター、アイシュワリヤー・ラーイで、1994年のミス・ワールドに選ばれたらしい。アメリカ人のダーシーさんを演じるのはマーティン・ヘンダーソン(『グレイズ・アナトミー』のネイサン)で、ビングリーさんはナヴィーン・アンドリュース(『LOST』のサイード)演じるバルラジュ・アッパル(Balraj Uppal)というキャラになっている。ウィッカムさんは『ヴァンパイア・ダイアリーズ』のイライジャ(ダニエル・ギリーズ)で、なぜかイギリス人設定だ。

 

バクシ姉妹がダーシーさんとビングリーさんとその妹Kiran(『ゲーム・オブ・スローンズ』のインディラ・ヴァルマ)に出会うのは知人の結婚式で、いきなり男女に分かれてダンスバトル(なんか花いちもんめみたいな感じで挑発し合う)が始まり爆笑した。もちろんダーシーさんは踊らないのだが、バルラジュはノリノリでセンターに入り「インドのMCハマーよ」と妹に言わせる。

 

ダーシーさんはホテルグループの御曹司という設定で、インドにホテルを買収しに来ている。そこでラリータが、インドで地元民と交わらず高級ホテルだけで過ごす金持ちを揶揄するというのはなかなか上手いと思った。ダーシーさんがラリータと一緒に地元民との交流を深め、ラリータに惹かれていく流れがすぐ見える。しかしやはりアメリカ人だからなのか、このダーシーさんは最初から笑顔を見せすぎる。高慢な感じは十分あるが、ダーシーさんにはツンツン仏頂面をしていてほしいのだ。

 

こちらのコリンズさん(ニティン・ガナトラ)もなかなかクセが強く、アメリカに移住した彼とシャーロットの結婚式で、バクシ家御一行はダーシーさんたちに再会する。嬉しいサプライズは、ダーシーの妹ジョージナ役がアレクシス・ブレデルだったことだ。このキャスティングをしたからにはエリザベスに懐くだけの可愛いジョージナでは済まないだろう、と勝手に思っていたら、ちょっとだがちゃんと重要な役割を与えられていた。

 

とにかく歌と踊りがそこかしこに入り、Ashantiも出てくるわ、アメリカパートではラテン系のミュージシャントリオやゴスペル隊も出てくるわやりたい放題だ。踊って大団円、高慢と偏見にピッタリでないか。

 

  1. Pride and Prejudice(高慢と偏見、1995年)

 

初見のBBCドラマ版。ダーシーさんといえばコリン・ファース、という印象が強かったためハードルを上げすぎたかもしれないが、こちらもずっと仏頂面すぎて緩急がなく、エリザベスとどこでお互い好きになったのかあまりはっきりしない。6話もあるが他の映画より話が濃かった気はあまりしない。たまにフラッシュバックが説明的に入るのがテレビっぽいなと思った。

 

しかしこれぞ基本、という感じで安定感があったし『ブリジット・ジョーンズの日記』の源泉を観られてよかったのと、伝説のびしょ濡れダーシーがEalingで撮られたことを知って嬉しくなった。

 

  1. Pride and Prejudice(高慢と偏見、1940年)

 

先日『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』を観たばかりなので、当時のキャスティングではやっぱりスタジオ付きの一番旬な俳優をメインに持ってきたのかな〜などと考えた。ローレンス・オリヴィエのダーシーさんはメイクなのか少女漫画っぽい風貌で、全体的にスクリューボールコメディっぽいのに引っ張られてわりと明るい感じになっている。ベネット母が娘たちをとにかく結婚させたがるのはいつものことだが、シャーロット家と馬車で競争までするなどかなりのコメディ感があった。

 

他の作品ではいつもただひたすら嫌な奴だったキャサリン夫人に粋なツイストが加えられていたり、さらにエンディングはベネット母が主人公だったのでは?!と思わせるくらいになっていたり、あれこれアレンジされている。

 

  1. Pride & Prejudice: Atlanta(原題、2019年)

 

アトランタの黒人コミュニティを舞台にした現代版。かなりそのままで戸惑うが、お父さんを牧師にすることで結婚観などが保守的なことの説明にしている感じだ。いつも思うが、Lifetimeチャンネルの恋愛モノはなぜ歴史的建物や商店街の保存を絡めてくるのか(笑)。開発反対運動に勤しむエリザベス(ティファニー・ハインズ)に対してダーシーさん(フアン・アントニオ)を議員候補にするというのは上手いが。このダーシーさんはニヤニヤしていてやっぱり仏頂面が足りない(笑)。

 

大きく変えている点といえば、ジェーン(レイニー・ブランチ)が子持ちの未亡人になっていることくらいか。ダーシーとかビングリーとか名前はそのままなのに終始"Yaaaass!! Girrrl!!!"みたいなノリなのも可笑しかった。

 

  1. Pride & Prejudice: A Latter-Day Comedy(原題、2003年)

 

白人だらけの現代版。こちらは無理してそのままにせず、姉妹を友人&ルームメイトに、両親やシャーロットを省略するなど工夫している。キャストはラスベガスの牧師役のジャレッド・ヘス(『オースティンランド 恋するテーマパーク』監督の夫)くらいしか知らなかったのだが、00年代のB級青春映画感がめちゃくちゃよく出ている。音楽もものすごくそれっぽいのだが、Shazam!しても一曲も引っかからなかった(笑)。

 

エリザベス(キャム・へスキン)は作家志望の書店員で、アルゼンチン人のルームメイト・ジェーン(ルシーラ・ソラ)は世話を焼いてエリザベスの原稿を片っ端から出版社に送っている。その中で唯一原稿に反応した出版社の経営者が、書店でエリザベスに失礼な態度を取ったウィル(オーランド・シール)だった。そこまでは良いのだが、ウィルにちょっと赤入れされただけで「私の小説はもう何度も書き直したのに」とキレるエリザベスは作家としてダメだと思う。エリザベスはブロンドで眉の細いいかにも当時の美人なのだがどうも私のイメージとは合わない。ウィルはなんだか良い人そうな顔立ちでこちらもちょっとイメージと違う。

 

リディア(ケリー・ステイブルズ)とジャック・ウィッカム(ヘンリー・マグワイア)が駆け落ちする先がラスベガスなのはいかにも。チャールズ(ベン・グーリー)がだいぶおかしな仕事をしており、後にその設定がちゃんと生かされるので「そのためかよ!」とちょっと笑った。コリンズさんがだいぶ嫌な奴だったのでメアリーとくっつけるなやと思ってしまった。

 

※番外編 Austenland(オースティンランド 恋するテーマパーク、2013年)

 

 

高慢と偏見』の物語をほぼそのまま踏襲した作品だけをピックアップしようと思っていたが(それだけでも本当はまだだいぶある)、これだけは今回加えておきたい。

 

主人公はジェーン・オースティンの大ファンで特にコリン・ファース版ダーシー様が大好きなアメリカ人のジェーン(ケリー・ラッセル)。三十路にもなってと反対されながら、夢だったオースティンの世界を疑似体験できるイギリスでの休暇プランに大枚をはたいて参加する。他の参加者は同じく女性のお一人様2人(ジェニファー・クーリッジ、ジョージア・キング)で、コスプレして男性役者にもてなされる感じがホストクラブごっこみたいでだいぶキツい…と序盤は思っていたら、ごっこの外側を見せる辺りから先が読めなくなりかなり面白くなってくる。そんな都合のいいファンタジーに浸ってると危ないよ、という警笛と、でもやっぱファンタジーいいよね!という祝福を同時にやってのけているのだ。

 

ダーシーさん的役割を務めるのはJJ・フィールド(『ターン・アップ・チャーリー』)で、彼はジェーンのどこが良いのかは全然わからないのだが、仏頂面がとても板についていて大変良い。何より私得なのは、最初にジェーンと良い感じになる雑用係的マルチ役者のマーティン役がFlight of the Conchordsのブレット・マッケンジーであること。ずっととぼけた姿しか見てこなかった彼がちゃんとlove interestを演じているところを見られただけでもう感無量だ。しかもそれだけではなく、ちゃんといつもの姿も見せてくれる。

 

極めつけは、エンディングクレジットのNellyだろう。とにかく観てほしい。