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Sempre più bello(ずっと、欲ばりなだけの恋じゃなくて)
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The Lost City(ザ・ロストシティ)
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The Valet(スターは駐車係に恋をする)
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Fire Island(ファイアー・アイランド)
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My Fake Boyfriend(ニセモノ彼氏)
6. 恋は光
オールLGBTQキャスト(一部カメオを除く)でジャド・アパトープロデュースのゲイラブコメが作られるというニュースを見てからずっと楽しみにしていた映画『Bros』。先にディズニープラス・米Huluで配信された『Fire Island(ファイアー・アイランド)』もとても丁寧なつくりで大好きだけど、『Bros』にはこれまでになく共感してしまい、生涯ベストに入るくらい大事な作品となった。
自分に自信を持ち、おかしいことはおかしいと声を上げることを常に憚らず、それを抑えつけられそうになっても絶対に引き下がらない主人公。そんな彼に劣等感や鬱陶しさを感じながらも刺激を受け、次第に変わっていくロマンスの相手。マイノリティが"声高に主張すること"を全力で肯定してくれて、何も図々しくない、主張しなきゃいけない社会がおかしいと何度も肩を叩いてくれるような優しさが全編に貫かれているのだ。何かと物を言っては「気にしすぎ」「怖い」などと言われてきた自分には、その姿勢を優しく肯定してくれ、ロールモデルを示してくれたようだった。
この作品をより理解したくて、キャストや監督のインタビューの類を片っ端から読み・聞き・観漁り、劇中出てくるポップカルチャーネタやLGBTQ+の歴史上の人物・出来事についてたくさん調べたので、せっかくなので元々知っていたものも改めてまとめてリストにした。調べきれなかったものも多々あるし、より正確を期するために随時更新していきたい。
ニューヨークに新しくできる国立LGBTQ+歴史博物館の立ち上げに携わるボビー。アプリで出会った人とカジュアルに肉体関係を持っては友人たちと楽しくおしゃべりを繰り返す毎日だったが、新しいゲイ向け出会い系アプリのローンチパーティで弁護士のアーロンと出会う。お互い真剣交際はしないたちだった二人はぎこちないながらも段々と距離を縮めていき…。
Billy Eichner(ビリー・アイクナー)/Bobby Lieber(ボビー・リーバー)
ニューヨーク出身のコメディアン・俳優。ポール・ラッドやクリス・エヴァンス、ミシェル・オバマなどセレブゲストと共にNYの街を駆け巡り道行く人々に唐突に声をかける番組『Billy on the Street』が有名。レズビアンたちを引き連れ「Let's Go Lesbians, Let's Go!」と叫びながら走る場面はネットミームになった。シットコム『Parks and Recreation』ではシーズン6から登場し、シーズン7でレギュラーに昇格。Apple TV+『Dickinson(デイキンスン)』ではエミリー・ディキンスンのスー・ギルバートへの愛を再確認させるゲイの詩人ウォルト・ウィットマン役。音楽はマライア・キャリーやマドンナが好き。好きなラブコメは『When Harry Met Sally(恋人たちの予感)』、『Moonstruck(月の輝く夜に)』など。
『Bros』タイトルの元になったという『Billy on the Street』のエピソード(feat.ジェイソン・サダイキス)↓
Luke Macfarlane(ルーク・マクファーレン)/Aaron Shepherd(アーロン・シェパード)
カナダ出身。ニューヨークのジュリアード音楽院で演劇を学ぶ。ドラマ『Brothers & Sisters(ブラザーズ&シスターズ)』(2006-2011年)ではマシュー・リース演じるケヴィンの相手役スコッティーを演じ、劇中で結婚した。その最中の2008年にゲイであることをカミングアウト。Netflixで2021年に配信されたゲイラブコメ『Single All The Way(シングル・オール・ザ・ウェイ)』では主人公のデート相手のジムインストラクターを演じた。『Bros』劇中で度々揶揄される「Hallheart Channel」の元ネタ「Hallmark Channel」(後述)のオリジナル映画13本に出演し、そのすべてで女性の恋の相手役を演じている。役柄同様カントリー音楽、特にガース・ブルックスが好き。木工大工が趣味で友人に手作りのベビーベッドやドアをプレゼントしている。好きなラブコメは『Pretty Woman(プリティ・ウーマン)』(倫理的な危うさにもちゃんと言及)。
Guy Branum(ガイ・ブレイナム)/Henry(ヘンリー)
ゲイ向け出会い系アプリ「ゼルウィガー」を運営するボビーの友人役。コメディアン・俳優・脚本家。ミンディ・カリング製作・主演のラブコメドラマ『The Mindy Project』に脚本家・俳優として参加。そのほか『No Strings Attached(抱きたいカンケイ)』などさまざまな作品に出演。
Dot-Marie Jones(ドット・マリー・ジョーンズ)/Cherry(チェリー)
ボビーが働くLGBTQ+博物館のメンバー役。役柄同様当人はオープンリーレズビアン。元アスリートで腕相撲世界チャンピオン。ドラマ『Glee(Glee/グリー)』ではトランス男性のコーチ・ビーストを演じた。
Jim Rash(ジム・ラッシュ)/Robert(ロバート)
ボビーが働くLGBTQ+博物館のメンバー役。ドラマ『Community(コミカレ!)』ではセクシャリティについて特定のラベルを持たない校長を演じた。
Ts Madison(Ts・マディソン)/Angela(アンジェラ)
ボビーが働くLGBTQ+博物館のメンバー役。映画『Zola(Zola ゾラ)』などに出演。黒人トランス女性として初めて自身のリアリティ番組を制作。
Miss Lawrence(ミス・ローレンス)/Wanda(ワンダ)
ボビーが働くLGBTQ+博物館のメンバー役。ジェンダーノンコンフォーミングの俳優・歌手。映画『The United States vs. Billie Holiday(ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ)』、ドラマ『Empire(Empire 成功の代償)』などに出演。
Eve Lindley(イヴ・リンドリー)/Tamara(タマラ)
ボビーが働くLGBTQ+博物館のメンバー役。映画『After Yang(アフター・ヤン)』、ドラマ『Mr.Robot(MR. ROBOT/ミスター・ロボット)』などに出演。ドラマ『Dispatches from Elsewhere(別世界からのメッセージ)』ではメインキャラクターの1人で美術館勤務のトランス女性シモーンを演じた。
Monica Raymund(モニカ・レイムンド)/Tina(ティナ)
男女カップルで子どもを育てているボビーの友人役。バイセクシャルであることをカミングアウトしている。ドラマ『The Good Wife(グッド・ワイフ)』、『Chicago Fire(シカゴ・ファイア)』などに出演。
Guillermo Diaz(ギレルモ・ディアス)/Edgar(エドガー)
男女カップルで子どもを育てているボビーの友人役。ゲイであることをカミングアウトしている。『Law & Order(ロー&オーダー)』、『ER(ER緊急救命室)』、『Girls(GIRLS/ガールズ)』など多数のドラマに出演。2013年の『Out』誌の「影響力のあるゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーの人々100人」に選ばれた。
Peter Kim(ピーター・キム)/Peter(ピーター)
ボビーの友人の1人を演じる。『The Forty-Year-Old Version(40歳の解釈: ラダの場合)』などに出演。
Justin Covington(ジャスティン・コヴィントン)/Paul(ポール)
コメディアン・俳優。Netflixのオムニバスシリーズ『Easy(イージー)』などに出演。
Symone(シモーン)/Marty(マーティ)
ボビーの友人の1人を演じる。『RuPaul's Drag Race(ル・ポールのドラァグ・レース)』シーズン13で優勝したドラァグクイーンとして有名。
Jai Rodriguez(ジェイ・ロドリゲス)/Jason Shepard(ジェイソン・シェパード)
妻と離婚したばかりのアーロンの兄役。『Queer Eye』(※後述)の初代メンバーで、カルチャーガイドを担当した。『Grey's Anatomy(グレイズ・アナトミー)』や『Dollface(ドールフェイス)』など数々のドラマに出演。
Amanda Bearse(アマンダ・ビアース)/Anne Shepard(アン・シェパード)
小学校2年生を教える教師・アーロンの母役。シットコム『Married... with Children』(1987-1997年)のマーシー役で有名。1993年にレズビアンであることをカミングアウトし、プライムタイム番組出演俳優で最初期にカミングアウトした1人となった。
Harvey Fierstein(ハーヴェイ・フィアースティン)/Lewis(ルイス)
プロヴィンスタウンでボビーとアーロンを迎え入れる宿主。俳優、プロデューサー、劇作家。『Torch Song Trilogy(トーチソング・トリロジー)』(演劇版・映画版)『Hairspray』(ミュージカル)など数々のアイコニックな作品に出演。自身のアイデンティティについて「たくさん考えたけどまだ困惑している」と語っている。
Bowen Yang(ボウエン・ヤン)/Lawrence Grape(ローレンス・グレイプ)
ボビーがLGBTQ+博物館への出資を頼みに行く大物TVプロデューサー役。人気スケッチ番組『Saturday Night Live(サタデー・ナイト・ライブ)』初の中国系アメリカ人、3人目のオープンリーゲイ男性レギュラーとなった。『Isn't It Romantic(ロマンチックじゃない?)』、『The Lost City(ザ・ロストシティ)』、『Fire Island(ファイアー・アイランド)』などラブコメにも多数出演。
Debra Messing(デブラ・メッシング)/本人役
シットコム『Will & Grace(ふたりは友達? ウィル&グレイス)』(1998-2006年、2017-2020年)でゲイのウィルの親友グレイス役を長年演じた。
Dr. Eric Cervini(エリック・セルヴィーニ博士)
『Bros』のLGBTQ+の歴史監修を務めた歴史学者。著書『The Deviant's War: The Homosexual vs. The United States of America』がピューリッツァー賞のファイナリストになった。
Stonewall riots(ストーンウォールの反乱)
LGBTQ+当事者が初めて警察に抵抗し暴動になった1969年の事件。誰が最初にレンガを投げたのかどうかは長年の議論の的となっているが、抵抗運動を率いたのはトランス女性のマーシャ・P・ジョンソンやシルヴィア・レヴェラだとボビーが紹介する。
Khnumhotep and Niankhkhnum(カーヌムホテップとニアンカーカーヌム)
「Bert and Ernie of Ancient Egypt(古代エジプトのバートとアーニー)」とボビーが言及する。紀元前2400年頃の古代エジプト王室に仕えた人物で、鼻同士を近づける描写などから歴史上で記録が残された最も古い同性カップルだという説がある。
Nancy Cardenas(ナンシー・カルデナス)
俳優・詩人・作家・フェミニスト。1974年に39歳で、メキシコで初めてレズビアンであることを公言した。同年メキシコで初の同性愛者組織「Frente de Liberación Homosexual(同性愛者解放運動)」を設立。同性愛者の権利を保護するマニフェストを作成し、1978年には初のゲイプライドマーチを率いた。※写真のみ
Alan Turing(アラン・チューリング)
イギリスの数学者。暗号解読で連合軍のナチス打倒に貢献した。1952年に19歳のArnold Murray(アーノルド・マレイ)との関係を告発され、逮捕されて転向療法としてホルモン治療を受けた。1954年に41歳で自殺したとされる。2013年に恩赦を受けた。※写真のみ
Leonardo Da Vinci(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
バイセクシャルだったかもしれないと言及がある。「サライ=(小悪魔)」という名前で知られていた弟子の1人ジャン・ジャコモ・カプロッティをことのほか愛して側に置いたと言われている。
Eleanor Roosevelt(エレノア・ルーズベルト)
アメリカ合衆国第32代大統領夫人。レズビアンの記者ロレーナ・ヒコックと親密な手紙をやり取りしていたことから、性的指向についても長年研究者の間で議論されてきた。
Harvey Milk(ハーヴェイ・ミルク)
1977年、アメリカ初のオープンリーゲイの議員としてカリフォルニア州サンフランシスコ市の市会議員に当選した。議員就任1年も経たない1978年にジョージ・マスコーニ市長とともに同市庁舎内で射殺され、犯人のダン・ホワイトはわずか7年の禁固刑となった。この評決に怒った同性愛者らが、サンフランシスコで広範囲にわたる暴動「Whit Night riots(白い夜の暴動)」を起こした。
James Baldwin(ジェームズ・ボールドウィン)
アメリカの作家・公民権運動家。作品内で多くのアフリカ系アメリカ人やゲイ、バイセクシャルの人物を扱った。ドキュメンタリー映画『I Am Not Your Negro(私はあなたのニグロではない)』はボールドウィンの未完の原稿を元に作られた。映画『If Beale Street Could Talk(ビール・ストリートの恋人たち)』原作者。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアとも公民権運動を行ったが、同性愛を精神疾患だと考えていたキングはオープンリーゲイであったボールドウィンから離れていき、ボールドウィンは運動組織から外された。
Bayard Rustin(バイヤード・ラスティン)
マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの右腕として1963年のワシントン大行進を率いた。公民権運動だけでなくオープンリーゲイであったことから何度も逮捕された。バラク・オバマ元米大統領とミシェル夫人の製作会社ハイヤー・グラウンドがNetflixと組んでプロデュースする初の劇映画『Rustin』(2023年公開予定)ではColeman Domingo(コールマン・ドミンゴ)がラスティンを演じる。
Abraham Lincoln(エイブラハム・リンカーン)のゲイ・バイセクシャル説
ビジネスパートナーのJoshua Fry Speed(ジョシュア・フライ・スピード)と親しい仲で、4年間一つのベッドをシェアしたため、リンカーンはゲイまたはバイセクシャル等であったのではないかと度々議論されている。当時は同性同士でベッドをシェアすることは珍しくなかったが、そこまでの長い期間はなかなかなかったらしい。妻の不在時に共に寝たと言われるボディガードのDavid Derickson(デヴィッド・デリクソン)との関係も議論の的となっている。
Pete Buttigieg(ピート・ブティジェッジ)
同性愛を公言した初の民主党大統領候補。ジョー・バイデン政権で同国運輸長官を務める。
キンゼイ指標(Kinsey Scale)
アメリカの性科学者・昆虫学者アルフレッド・キンゼイ博士が考案した人間の異性愛と同性愛の指向を示す7段階の指標。博士が1948年と1953年に発表した「Kinsey Reports(キンゼイ報告)」では、ほとんどの人はある程度両性愛的傾向を持つと述べている。リーアム・ニーソン主演の伝記映画『Kinsey(愛についてのキンゼイレポート)』(2004年)はルーク・マクファーレンが博士の息子役で出演した映画デビュー作。
Liberace(リベラーチェ)
世界的人気を博したピアニスト。1987年にエイズで死去。生前カミングアウトすることはなかったが、友人のベティ・ホワイトが2011年のインタビューで彼はゲイであり、度々自分はカモフラージュに使われたと語っている。※言葉での言及のみ
Martina Navratilova(マルティナ・ナヴラティロヴァ)
チェコスロバキア出身のアメリカのテニス選手。ボビーが彼女についての絵本を作ったことがあるとポッドキャストで話す場面がある。現在はレズビアンだと公言している。
Netflixの人気番組。それぞれヘアメイク、ファッション、インテリア、料理など得意分野を持つ5人が一般人のメイクオーバーを行う。ボビーが『クィア・アイ』メンバーになるオーディションを受けるシーンがある。アーロンの兄役ジェイ・ロドリゲスは2003年にケーブル局Bravoで放送されたオリジナル版のメンバー。
Colton Underwood(コルトン・アンダーウッド)
ボビーが出席する「LGBTQ+ Pride Awards」授賞式で、「Out Athlete of the Year」を受賞したNFL選手が尊敬する人として挙げる。元NFL選手で、引退後の2019年に結婚相手を探すリアリティ番組『The Bachelor』に出演。2021年にゲイであることをカミングアウトし、そのプロセスを追ったNetflix番組『Coming Out Colton(コルトン・アンダーウッドのカミングアウト)』が配信された。
Hallheart Channel
グリーティングカード会社が運営するメロドラマチャンネル「Hallmark Channel」のもじり。『Full House(フルハウス)』のキャンディス・キャメロン・ブレやチャド・マイケル・マーレイが御用達俳優となっている。『Bros』の中では近年急にゲイやバイセクシャルやポリアモリーのクリスマス映画を作り出したと揶揄されているが、実際のHallmarkは今年12月放送のジョナサン・ベネット主演『The Holiday Sitter』がゲイキャラクターがメインの初の作品となる。
南北戦争におけるLGBTQ+
「南北戦争で戦った400人のレズビアン」にチェリーが言及し、アンジェラが「その中にはトランス男性もいた」と話す場面がある。実際には北軍だけでも800人の女性兵士がおり、南軍には250人いたと推測されている。兵士たちの実際のアイデンティティを知ることは難しいが、一部の兵士は戦後も男性として生きた記録がある。
Bisexual Awareness Week
GLAADとBiNet USAによって制定されたものは毎年9月16–23日。劇中では6月に「今週はBisexual Awareness Weekだ」とロバートが話す。
Lesbian History Month
3月だったとチェリーが言及する場面がある(この名称での開催確認できず)。
Katherine Lee Bates(キャサリン・リー・ベイツ)
愛国歌「America the Beautiful」の作詞で知られる詩人・作家・学者。「ヴァージニア州の彼女の家に行くと、詞を書いたナプキンがある」とチェリーが言及する場面がある。同居していた社会運動家のKatharine Coman(キャサリン・コーマン)とはレズビアンカップルだったとの説がある。
Schitt's Creek(シッツ・クリーク)
カナダのコメディドラマ。オープンリーゲイのダン・レヴィ演じるゲイキャラクターのデヴィッドは劇中で結婚式を挙げた。ボビーが似ていると言われるユージン・レヴィはダンの父親。
Cher(シェール)
ゲイ・アイコンとして多くの人に崇められる歌手・俳優。アーロンの元を訪れた相談者が遺産を全額シェールに残したいと言い出す。ドラァグクイーンをステージパフォーマーとして雇い一般的にしたアーティストの1人と言われ、映画『Silkwood(シルクウッド)』ではレズビアンの人物を演じた。トランスジェンダーの息子がいる。
Michael Scott/The Office(マイケル・スコット/ジ・オフィス)
英国のドラマをリメイクしたアメリカの人気職場コメディ。マイケル・スコットはスティーヴ・カレルが演じる主人公。アーロンからメールで「踊っているマイケル・スコットのGIF」を送られたボビーは「ジ・オフィス?!こいつ本当にゲイか?!」と反応する。
Evan Hansen(エヴァン・ハンセン)
ミュージカル、のちに映画になった『Dear Evan Hansen(ディア・エヴァン・ハンセン)』の主人公。内気で、自死した同級生の両親に息子と仲が良い友達だったと勘違いされ話を合わせてしまう。劇中では同級生の女子に恋をするが、オープンリーゲイのベン・プラットが演じている。ボビーがアーロンとの最初のデートで自分を卑下し「僕はエヴァン・ハンセンのその後みたいだ」というシーンがある。
The Hangover(ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い)
2009年のヒット映画。ブラッドリー・クーパー演じるフィルがエド・ヘルムズ演じるスチュアートを「Dr. Faggot(ホモ先生)」と呼ぶ場面があり、ボビーが批判する。
The Treasure Inside
ボビーとアーロンが最初のデートで映画館に観に行く劇中劇。「ストレートの俳優が賞を獲るためにゲイの役を演じる悲劇的な作品」をボビーが散々揶揄した直後に観に行く。『Brokeback Mountain(ブロークバック・マウンテン)』や『The Power of the Dog(パワー・オブ・ザ・ドッグ)』のパロディと思われる。リアム・ヘムズワースとニック・ジョナスで実際のシーンを撮ろうとしていたがコロナの影響で断念。
Elphaba Thropp(エルファバ・スロップ)
ミュージカル『Wicked』の「西の悪い魔女」。
高校の合唱部を舞台にした学園ドラマ。ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーのキャラクターが登場した。
Doja Cat
ラッパー・歌手。LGBTQ+歴史博物館のファンドレイジングパーティーで名前が言及される。歌詞中でバイセクシャリティを仄めかしている。
It's Always Sunny in Philadelphia(フィラデルフィアは今日も晴れ)
2005年から続くご長寿シットコム。Rob McElhenney(ロブ・マケルヘニー)演じるメインキャラクターの1人マックがシーズン12で初めてゲイであることをカミングアウトする。
Viola Davis of Tufts
※このジョークはよくわからなかったのでわかった方がいたらぜひ教えてください
Lemonade
Beyonceのアルバム名。
Caitlyn Jenner(ケイトリン・ジェンナー)
陸上・十種競技の元世界記録保持者で、1976年モントリオールオリンピックの金メダリスト。弁護士ロバート・カーダシアンの元妻であるクリス・ジェンナーと1991年に結婚し、ケンダルとカイリーをもうけた。2007-2021年まで、カーダシアン家とジェンナー家のリアリティ番組『Keeping Up with the Kardashians(カーダシアン家のお騒がせセレブライフ)』に出演。2015年にトランス女性であることを公表。世界で最も有名なトランス女性と呼ばれ、トランスジェンダーの人々のための人権活動を行ってきた。しかし共和党員であることや、トランス女性の女性スポーツ参加に反対したことなどから、多くのLGBTQ+活動家から批判されている。『Bros』ではタマラがジェンナーを「テロリスト」と呼ぶシーンがある。
Ozark(オザークへようこそ)
ジェイソン・ベイトマン、ジュリア・ガーナーらが出演するNetflixの人気ドラマ。ボビーがアーロンへの連絡を我慢しようと一人で料理している場面で「Don't call him 〜just watch Ozark 〜 like a normal person〜」と口ずさむ。
Austin Powers(オースティン・パワーズ)
毛深い人の例えとして言及される。
Provincetown(プロヴィンスタウン)
マサチューセッツ州の小さな海岸リゾート。自由な雰囲気からLGBTQ+コミュニティのバケーションの地としても知られる。映画監督のジョン・ウォーターズが住んでいる。
Lil Nas X
ラッパー。カントリー歌手のBilly Ray Cyrus(ビリー・レイ・サイラス)をフィーチャーした『Old Town Road』が全米歴代最長の19週連続No.1ヒット。その最中にゲイであることをカミングアウトした。黒人の囚人たちが刑務所内のシャワーで裸で踊るシーンが話題となった『INDUSTRY BABY』のMVでは、ピンクの囚人服を着た囚人たちがダンベルトレーニングをする場面もある。『Bros』でボウエン・ヤン演じるTVプロデューサーがLGBTQ+博物館の展示内容のアイデアを出した際、「ゲイトラウマアトラクション」の最後に現れるハッピーなシーンとして「ピンクのダンベルでトレーニングしているLil Nas X」を提案する。
A Sex Positive Tiny Tim
※このネタはよくわからなかったのでわかった方がいたらぜひ教えてください
Rachael Ray(レイチェル・レイ)
人気セレブシェフ。
Leslie Jordan(レスリー・ジョーダン)
『Will & Grace(ふたりは友達? ウィル&グレイス)』ビヴァリー・レスリー役などで知られるコメディアン・俳優。オープンリーゲイで、エイズ危機の初期には非営利団体の患者支援活動に携わった。『Bros』ではHallheart Channelの架空の映画として紹介された『Miracle on 34th Street but with One Gay Guy』のポスターに登場。2022年10月24日に交通事故で亡くなった。
Sarah Paulson(サラ・ポールソン)
自身のセクシャリティについて「Fluid」と語っている。女性とオープンに交際していることからレズビアンアイコンとして多くの人に崇められている。『Bros』ではHallheart Channelの架空の映画として『Home Alone but with Sarah Paulson』が紹介される。
1976 Dyke March
レズビアンのデモ。ボビーがアーロンの家族にニューヨークを案内する際、1976年のDyke Marchのコースを教えたとアーロンが言及する。
Yentl(愛しのイエンテル)
バーブラ・ストライサンド監督・主演の映画。ポーランドに暮らすユダヤ人女性イエンテルは、女性が学ぶことを許されていなかった「タルムード(ユダヤ教の主要教派の多くが聖典として認める文書群)」を学ぶために男装をする。ボビーがジムでマッチョな男性をナンパする際わざと低い声を使ったことを同作に例える。
Silence=Death Triangle
エイズ危機の際に意識向上のために立ち上げられた「Silence=Death(沈黙は死) Project」のポスターにちなんでいる。ピンクの三角形は、同性愛者を表す記号としてナチス強制収容所のバッジでは逆三角形で用いられていた。
Tirami-Susan
『ファイアー・アイランド』が『高慢と偏見』をベースにしているというので、あんまり覚えてないな…と2005年のジョー・ライト版を再見。キーラ・ナイトレイの勝ち気なエリザベスも、マシュー・マクファディンのダーシーさんのキラキラした切ない眼差しも完璧だ。二人の心の動きがコンパクトな中にも一番うまく描かれていると思う。ロザムンド・パイク、キャリー・マリガン、タルラ・ライリー、ジェナ・マローンのベネット姉妹は今観ると一層豪華で楽しい。
コメディアンのジョエル・キム・ブースター脚本・主演。遊び人で読書家、看護師の主人公ノア(エリザベス)と親友のハウイー(ボウエン・ヤン、ジェーン)、ルーク(マット・ロジャーズ、リディア)、キーガン(トマス・マトス、キティ)は毎年恒例のファイアー・アイランドへのバケーションに出かける。マーガレット・チョーが旅先の宿主兼皆のお母さん的存在(=ベネット夫人)だ。
旅先で一行よりずっと高級な別荘に泊まっているのがチャーリー(ジェームズ・スカリー)と友人で医師のウィル(コンラッド・リカモラ)とクーパー(ニック・アダムス、キャロライン)。ウィッカムさんにあたるデックス(ゼイン・フィリップス)も登場する。
最初からジェーン・オースティンの名前を出してリスペクトを入れつつ、でも「ヘテロ規範強すぎるよね〜」とツッコむのも忘れないところ、そして全編通してゲイキャラクターばかりで皆楽しそうにしているのが最高だ。無理に保守的な部分(母親が娘全員をとにかく結婚させようとするとか)を踏襲せず、うまく現代に落とし込んでいる。それでいて、ダーシーさんはちゃんと雨にも打たれてくれる(小説を読んでないので雨に打たれるシーンが元々あるのか知らないけど)。こちらのダーシーさんも、仏頂面とコミカルなところ、デレデレするところちゃんと全部やってくれるので、今のところマシュー・マクファディンと共にダーシーさん選手権同率一位を併走(?)している。
おとなしめで恋愛に積極的になれないハウイーとノアの友情も大変かわいい。ルークとキーガンがただのアホな兄弟でなく、ちょっと騒がしくてやらかしがちだけど対等な友人になっているのもとても好きなポイントだ。あとブリトニーの曲の使い方が正しい。
友人とウォッチパーティーで観るのにこれほど最適な映画があっただろうか。(いや、ある。その名をバーフバリという)もっとゾンビを取り入れるのに合わせてストーリーを変えてもよかったんじゃ?!と思うほど高慢と偏見だった。姉妹が勇ましく武器を取り出す度に皆で「キター!!!」と爆笑した。私は先に紹介した2作を観た直後だったので比べてその忠実さに笑ったが、『高慢と偏見』初見の友人たちもそもそものプロットに大盛り上がりだった。
リリー・ジェームズのエリザベスはさすが可愛いし強いし大変良いのだが、個人的にはこのダーシーさん(サム・ライリー)はずっと仏頂面すぎる。堅いなりに情熱を見せてほしいのだ。チャールズ・ダンス(ベネット父)やレナ・ヘディ(キャサリン夫人)も出してくるあたり、いかにも『ダウントン・アビー』と『ゲーム・オブ・スローンズ』が流行っている時代に作ったなという感じがする。しかし、マット・スミス演じるコリンズさんのクセが強すぎてその他全員を食っていたと思う。
あと、中国とか日本で修行したという下りは全然いらなかったと思う。日本刀使いこなせてない。
ボリウッド版があると聞いて観ないわけにはいかない。ラリータ・バクシ(Lalita Bakshi、エリザベス)を演じるのはインドのスター、アイシュワリヤー・ラーイで、1994年のミス・ワールドに選ばれたらしい。アメリカ人のダーシーさんを演じるのはマーティン・ヘンダーソン(『グレイズ・アナトミー』のネイサン)で、ビングリーさんはナヴィーン・アンドリュース(『LOST』のサイード)演じるバルラジュ・アッパル(Balraj Uppal)というキャラになっている。ウィッカムさんは『ヴァンパイア・ダイアリーズ』のイライジャ(ダニエル・ギリーズ)で、なぜかイギリス人設定だ。
バクシ姉妹がダーシーさんとビングリーさんとその妹Kiran(『ゲーム・オブ・スローンズ』のインディラ・ヴァルマ)に出会うのは知人の結婚式で、いきなり男女に分かれてダンスバトル(なんか花いちもんめみたいな感じで挑発し合う)が始まり爆笑した。もちろんダーシーさんは踊らないのだが、バルラジュはノリノリでセンターに入り「インドのMCハマーよ」と妹に言わせる。
ダーシーさんはホテルグループの御曹司という設定で、インドにホテルを買収しに来ている。そこでラリータが、インドで地元民と交わらず高級ホテルだけで過ごす金持ちを揶揄するというのはなかなか上手いと思った。ダーシーさんがラリータと一緒に地元民との交流を深め、ラリータに惹かれていく流れがすぐ見える。しかしやはりアメリカ人だからなのか、このダーシーさんは最初から笑顔を見せすぎる。高慢な感じは十分あるが、ダーシーさんにはツンツン仏頂面をしていてほしいのだ。
こちらのコリンズさん(ニティン・ガナトラ)もなかなかクセが強く、アメリカに移住した彼とシャーロットの結婚式で、バクシ家御一行はダーシーさんたちに再会する。嬉しいサプライズは、ダーシーの妹ジョージナ役がアレクシス・ブレデルだったことだ。このキャスティングをしたからにはエリザベスに懐くだけの可愛いジョージナでは済まないだろう、と勝手に思っていたら、ちょっとだがちゃんと重要な役割を与えられていた。
とにかく歌と踊りがそこかしこに入り、Ashantiも出てくるわ、アメリカパートではラテン系のミュージシャントリオやゴスペル隊も出てくるわやりたい放題だ。踊って大団円、高慢と偏見にピッタリでないか。
初見のBBCドラマ版。ダーシーさんといえばコリン・ファース、という印象が強かったためハードルを上げすぎたかもしれないが、こちらもずっと仏頂面すぎて緩急がなく、エリザベスとどこでお互い好きになったのかあまりはっきりしない。6話もあるが他の映画より話が濃かった気はあまりしない。たまにフラッシュバックが説明的に入るのがテレビっぽいなと思った。
しかしこれぞ基本、という感じで安定感があったし『ブリジット・ジョーンズの日記』の源泉を観られてよかったのと、伝説のびしょ濡れダーシーがEalingで撮られたことを知って嬉しくなった。
先日『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』を観たばかりなので、当時のキャスティングではやっぱりスタジオ付きの一番旬な俳優をメインに持ってきたのかな〜などと考えた。ローレンス・オリヴィエのダーシーさんはメイクなのか少女漫画っぽい風貌で、全体的にスクリューボールコメディっぽいのに引っ張られてわりと明るい感じになっている。ベネット母が娘たちをとにかく結婚させたがるのはいつものことだが、シャーロット家と馬車で競争までするなどかなりのコメディ感があった。
他の作品ではいつもただひたすら嫌な奴だったキャサリン夫人に粋なツイストが加えられていたり、さらにエンディングはベネット母が主人公だったのでは?!と思わせるくらいになっていたり、あれこれアレンジされている。
アトランタの黒人コミュニティを舞台にした現代版。かなりそのままで戸惑うが、お父さんを牧師にすることで結婚観などが保守的なことの説明にしている感じだ。いつも思うが、Lifetimeチャンネルの恋愛モノはなぜ歴史的建物や商店街の保存を絡めてくるのか(笑)。開発反対運動に勤しむエリザベス(ティファニー・ハインズ)に対してダーシーさん(フアン・アントニオ)を議員候補にするというのは上手いが。このダーシーさんはニヤニヤしていてやっぱり仏頂面が足りない(笑)。
大きく変えている点といえば、ジェーン(レイニー・ブランチ)が子持ちの未亡人になっていることくらいか。ダーシーとかビングリーとか名前はそのままなのに終始"Yaaaass!! Girrrl!!!"みたいなノリなのも可笑しかった。
白人だらけの現代版。こちらは無理してそのままにせず、姉妹を友人&ルームメイトに、両親やシャーロットを省略するなど工夫している。キャストはラスベガスの牧師役のジャレッド・ヘス(『オースティンランド 恋するテーマパーク』監督の夫)くらいしか知らなかったのだが、00年代のB級青春映画感がめちゃくちゃよく出ている。音楽もものすごくそれっぽいのだが、Shazam!しても一曲も引っかからなかった(笑)。
エリザベス(キャム・へスキン)は作家志望の書店員で、アルゼンチン人のルームメイト・ジェーン(ルシーラ・ソラ)は世話を焼いてエリザベスの原稿を片っ端から出版社に送っている。その中で唯一原稿に反応した出版社の経営者が、書店でエリザベスに失礼な態度を取ったウィル(オーランド・シール)だった。そこまでは良いのだが、ウィルにちょっと赤入れされただけで「私の小説はもう何度も書き直したのに」とキレるエリザベスは作家としてダメだと思う。エリザベスはブロンドで眉の細いいかにも当時の美人なのだがどうも私のイメージとは合わない。ウィルはなんだか良い人そうな顔立ちでこちらもちょっとイメージと違う。
リディア(ケリー・ステイブルズ)とジャック・ウィッカム(ヘンリー・マグワイア)が駆け落ちする先がラスベガスなのはいかにも。チャールズ(ベン・グーリー)がだいぶおかしな仕事をしており、後にその設定がちゃんと生かされるので「そのためかよ!」とちょっと笑った。コリンズさんがだいぶ嫌な奴だったのでメアリーとくっつけるなやと思ってしまった。
※番外編 Austenland(オースティンランド 恋するテーマパーク、2013年)
『高慢と偏見』の物語をほぼそのまま踏襲した作品だけをピックアップしようと思っていたが(それだけでも本当はまだだいぶある)、これだけは今回加えておきたい。
主人公はジェーン・オースティンの大ファンで特にコリン・ファース版ダーシー様が大好きなアメリカ人のジェーン(ケリー・ラッセル)。三十路にもなってと反対されながら、夢だったオースティンの世界を疑似体験できるイギリスでの休暇プランに大枚をはたいて参加する。他の参加者は同じく女性のお一人様2人(ジェニファー・クーリッジ、ジョージア・キング)で、コスプレして男性役者にもてなされる感じがホストクラブごっこみたいでだいぶキツい…と序盤は思っていたら、ごっこの外側を見せる辺りから先が読めなくなりかなり面白くなってくる。そんな都合のいいファンタジーに浸ってると危ないよ、という警笛と、でもやっぱファンタジーいいよね!という祝福を同時にやってのけているのだ。
ダーシーさん的役割を務めるのはJJ・フィールド(『ターン・アップ・チャーリー』)で、彼はジェーンのどこが良いのかは全然わからないのだが、仏頂面がとても板についていて大変良い。何より私得なのは、最初にジェーンと良い感じになる雑用係的マルチ役者のマーティン役がFlight of the Conchordsのブレット・マッケンジーであること。ずっととぼけた姿しか見てこなかった彼がちゃんとlove interestを演じているところを見られただけでもう感無量だ。しかもそれだけではなく、ちゃんといつもの姿も見せてくれる。
極めつけは、エンディングクレジットのNellyだろう。とにかく観てほしい。
※もう記事タイトルでネタバレしているようなものだけど、気になる方は観てからどうぞ
クロエ・グレース・モレッツ主演のニュージーランド映画『Shadow in the Cloud(シャドウ・イン・クラウド)』を観た。予告編から明かされているが、クロエが空中で日本軍やモンスター(グレムリン)と戦う話だ。評判が良く、フェミニスト映画としても持て囃されていたので気になった。
実際に「ウソでしょ?!」とツッコみたくなるような大胆な戦闘シーンがいくつかあり楽しんだ部分もあったのだが、私はこの作品をフェミニスト映画とは呼びたくない。そしてそんな感想を話したら、かなりの反発を受けた。この作品のフェミニズム的側面を認めない私はおかしいのだろうか? 私が持った違和感を持つ人はほかにもいるようなのに、なぜその点はこんなに軽視されるのだろうか? とかなり考え込むことになったので、ちゃんともう少しインプットした上で文章にしたいと思った。
極端にミソジニスティックな言葉を浴びせまくる
クロエ演じるモード・ギャレットは、機密物資を運ぶためと言ってオークランドからサモアに向かう軍機に乗り込む。男性のみのクルーたちは突然現れた彼女を舐めた態度を取り、機体下部の銃塔に押し込めた彼女に聞こえていないと思い込んだまま「あれはヤレる」みたいなかなり過激なミソジニー発言をけっこうな時間続ける。モードが聞こえていることをさらっと伝えると彼らは笑ってごまかす。これはもう映画としての好みだし、女性軍人が実際に言われてきたことだと言われればそうですかとしか言いようがないが、この描写は単純に古い。
機密鞄の中身、なぜそれにした
モードは攻撃してきた日本軍機を撃墜するが、機体の外にモンスターを目撃し、そのことを必死でクルーに伝える。彼らはなかなか信じず、モードの身元と機体の不調を怪しんだ機長の命令で、機密鞄を開けて中身を見てしまう。中には赤ん坊が入っていた。
モードは夫からひどい虐待を受けており、そんな中で関係を持ったクルーの一人ウォルター・クエイド(彼だけは唯一モードに親切だった)との間に子どもを授かっていた。子どもの存在はクエイドにも知らせておらず、夫から逃れるために任務を装って乗り込んできたのだ。子どもには看護師か誰かに頼んで鎮静剤を打ってもらったという(!)。
この鞄の中身が判明した時点で、私の中ではかなりこの作品への期待が消え失せた。これまで古さはあれど、世の中のどんな組織より男社会であろう軍の中で頑張る強い女性軍人を描くのだと思っていた。女性の強さが戦争に利用されるというシチュエーションな時点でかなり危ういものがあるが、メインの相手はモンスターみたいだし、と思っていたら、これは“母性神話”だったのだ。
その後、モードは何が何でも赤ん坊を守り、臆せずモンスターと戦う超人と化す。男たちの頼りなさが強調され、ひたすら「母、強し」なままなんの躊躇もなく最後までストーリーが進む。
「母性神話」の影響の軽視
私が一番引っかかったのは、こんなに「ザ・母性神話」な話が、なぜフェミニスト作品として持て囃されるのかということだ。この展開は、この作品のほかのフェミニズム的要素を無に帰すようなものではないのか。フェミニズムは母性神話を丁寧に解体してきたのではなかったか。それとも世の中はまだかなりの母性主義なのか。そこの自信がなかったために、「母の超人的な強さみたいなものも女性のエンパワメントの一つなのでは、フェミニズムと対立しないのでは」(うろ覚えです)と言われて咄嗟に返せなかった。「母の強さ」を描くことに反発を覚える自分は「母の敵」なのだろうかとまで悩んだ。
しかしやはり、「母性を強さとして描くこと」=「母性があれば超人的に強くなれると描くこと」ではない。子どもができたことで、「この子を守るためなら何でもできる」と今までなかった力を感じる人はいるだろう。それを作中唯一の女性に背負わせることが表象として有害なのだ。
「母性」は生まれながらにして女性全員に備わっているものではないし、子どもが生まれたら自動的に身につくものではないし、母は皆超人ではない。そのような言説や表現は散々女性を苦しめてきた。それがなぜここでは見逃される、または軽視されるのだろうか。
最近では、Netflixアニメ『The Mitchells vs. the Machines(ミッチェル家とマシンの反乱)』でも、母親のキャラクターが息子のピンチに急に超人化するという描写があった。同じNetflixの『The Lost Daughter(ロスト・ドーター)』のような母性に疑問を呈する作品がまだまだ「タブーに切り込んだ」と評されるくらいなのだから、私の見通しが甘いのかもしれない。
これについて考えていたとき、Apple TV+のドラマ『Pachinko パチンコ』の第6話を観た。主人公の一人スンジャの自宅での出産シーンで、あまり親しくなかった近所のおばちゃんが「あんまりうるさいもんだから手伝いに来たよ!」と出産を手助けする。ああ、私が見たい母の強さ、連帯とはこういうものだと思った。
母になった人の経験やそれにもとづいて獲得した強さは存在するし、また実社会で母親が置かれる立場は父親とも違うので、一口に「親」としてそこを透明化するのも違う。
私は子どもがいるいない関係なくただ強い女性の話がもっと観たいし、母としての経験にエンパワメントされる女性の話も、悩む女性の話ももっと観たい。
最後のシーンについて
『シャドウ・イン・クラウド』では最後にモードがまるで聖母のように赤ん坊に授乳するシーンがある。私がそれを「サービスショット」だと書いたことについても反論されたが、これはこの作品を「フェミニスト映画」と捉えられているか否かに尽きると思う。
私だって授乳シーンでかなりの露出があるからといってすべてのそういうシーンに反発するわけではない。むしろ文脈によってはエンパワメントにすらなり得る描写だと思う。この映画では、残念ながら「こういうのを入れとけばフェミニズムになるんでしょ」と勘違いで(あるいは本気で母性主義を信じて)放り込まれた母性神話を利用したサービスショットにしか見えなかったという話だ。
脚本家への告発について
一応言及しておくと、この映画の脚本にクレジットされているマックス・ランディスは、複数の女性から性的暴行を告発されている。ランディスはプロデューサーから外され、ロザンヌ・リャン監督が脚本のリライトを行ったが、脚本のクレジットからはランディスは外せなかったという。
最終的にどこまでが彼の仕事なのかわからないので、そういう人の脚本をもとに映画を作ったことの是非自体は置いておく(最初の告発が2017年、クロエ・グレース・モレッツの出演が発表されたのが2019年なので、止める・イチから練り直すことはできたのではとは思う)。その上で、ここでは最終的なアウトプットのみを批判している。
そういえば、女性ばかりのアクション映画『The 355(355)』でペネロペ・クルスが演じた役は、メイン5人の女性の中で唯一子どもがいて、唯一いわゆる戦闘能力を持たない人だったなと思い出した。あれはあれで「守るものがいると弱い」みたいで、最終的には彼女も銃を持たされてはいたけれど、どうしてこう極端なのだと思う。5人も多様な女が出ている作品でこそ、母の強さも存分に描けるのに。(当たり前だが、武力だけが強さだと言っているわけではない)
母性についてフェミニズムの中での捉え方を掘り下げたいと思い読んでいる『母性の抑圧と抵抗』(元橋利恵著、晃洋書房)はかなり面白い。戦略的母性主義という言葉を知れてとても良かったと思う。
Dir. @roshanvsethi's rom-com, "7 Days," premiered last night at #Tribeca2021! Set up on a pre-arranged date, Ravi & Rita are forced to shelter in place as COVID-19 intensifies. Starring @ItsKaranSoni & @yoyogeraldinev, stream it today via #TribecaAtHome: https://t.co/j2VyWst5IF pic.twitter.com/tuDJ45RNm8
— Tribeca (@Tribeca) June 11, 2021
There are so many connections in The Netflix Holiday Universe of films — have you caught them all? pic.twitter.com/qb7QgnzUxe
— Netflix (@netflix) November 29, 2021
OP曲
5togetherの却下されたクリスマスソング
メッセージを伝えるために性的暴行シーンが必要な作品などいらない
禊になってない
追記※これだけ「賞賛されているのを見るのがつらかった」と書いたのに反論になってない反論を長文でコメントされたのでコメント欄は閉じました。私にこれ以上平易な言葉で説明する義務も人の正しさの証明に付き合う義務もありません。違う意見を持つのはけっこうですが自分のブログなりSNSでやってください。すべて「そうは思いません」で返します。