Coffee and Contemplation

海外ドラマや映画、使われている音楽のことなど。日本未公開作品も。

2022年1-3月に観た新作ラブコメ8本の感想まとめ

1.Book of Love(原題)
 

 
サム・クラフリン演じるロマンス小説家ヘンリーの作品がメキシコでなぜか大ヒット。トークイベントツアーのために現地へ出向くと、ヒットの理由は翻訳家マリア(ベロニカ・エチェーギ)が勝手に内容を大幅にエロティックに改変したためだと判明し…
 
これは設定から嫌な予感がしていたけど、やっぱりそこでつまづいた。翻訳者が人の小説を勝手に改変して悪びれもせず、「自分がぜんぶ書いたのに男の手柄にされる」とフェミニズム的文脈に持ってこうとする雑さ。せめて元の小説が父権的でムカついたからとか別の理由を入れるか、売れるために出来心で微変更した、くらいにしてほしかった。
 
実際は「愛はそんな物じゃない」とただ違う価値観にムカついて作家の人間性をジャッジしているだけで、当の作家も質をバカにされたことにばかり怒っている。これはそれ以前の問題だ。改変後の小説の良さも、「情熱的」と言うばかりでどこがそんなに良いのかわからない。
 
ヘンリーのキャラが薄く、真面目そうで全体的にボンヤリという設定なのか、謎のおっちょこちょいシーンがちょくちょく入る。ボトムスを履き忘れるとか、ものすごい変顔でライムを食べるとか。でもそこはサム・クラフリン、マリアに惚れる瞬間はハッとするような切ない表情も見せてはくれる。
 
メキシコの人たちは、こんなただ“情熱的な人々”みたいな雑な描き方をされて良いんだろうか。
 
ブコメーター(仮称)>>
共感度★☆☆☆☆
キュンキュン度★★☆☆☆
ドタバタ度★★☆☆☆
定石通り度★★★☆☆
ご都合主義ほど良さ度★☆☆☆☆
オシャレ度★★☆☆☆
カルチャーネタ満載度★☆☆☆☆
 
2.The Royal Treatment(ロイヤル・トリートメント)
 

 
『アラジン』のメナ・マスードが架空の国ラヴァニアの王子トーマス、ディズニー・チャンネル出身のローラ・マラーノが小さな美容室の経営者イジーを演じる。アメリカ人の婚約者に会いに来たトーマスは、従者が高級美容室と間違えてブッキングしたイジーを気に入り、ラヴァニアでの結婚式のスタイリングも依頼する。
 
せっかく美容師という設定なのに特にヘアスタイルにもファッションにもワクワクしないし、整合性のない謎コントが多すぎてほかが頭に入らなかった。
 
ブコメーター(仮称)>>
共感度★☆☆☆☆
キュンキュン度★★☆☆☆
ドタバタ度★★☆☆☆
定石通り度★★★☆☆
ご都合主義ほど良さ度★☆☆☆☆
オシャレ度★☆☆☆☆
カルチャーネタ満載度★☆☆☆☆
 
3.I Want You Back(恋人を取り戻すには)
 

 
予期せぬ妊娠をするコメディアンを演じた『Obvious Child(原題)』がとても良かったジェニー・スレイトの新作。脚本は『Love, サイモン 17歳の告白』の2人、監督はピート・デヴィッドソンの主演映画『Big TIme Adolescence(原題)』と彼のコメディスペシャルを撮っているジェイソン・オーリー。
 
ジェニー演じるエマとピーター(チャーリー・デイ)はそれぞれのパートナー(スコット・イーストウッドジーナ・デイヴィス)にフラれた直後にたまたま出会い、ヨリを戻すために協力し始める。
 
年齢的に地に足ついた感じだけどドタバタもちゃんとあって、久々の安心感のある脚本だった。それぞれの元カレ・元カノの新しい相手にClark Backoとマニー・ジャシントも出てきて、合計6人分のラブコメ演技を観れるお得感。それだけいてぜんぶヘテロかよとは思ったけど。あと、美味しいスイーツ屋のシーンをわざわざ出しておいてスイーツをアップで映さないのは罪だ。
 
なぜかラブコメにチョイ役率の高いピート・デヴィッドソンは今回ももちろん変な役で登板。あとThe O.C.のベン・マッケンジーがすっかり中年の役で出てきてびっくりした。
 
どうでもいいけど、序盤に出てきた子ども部屋のようなところに『フリー・ウィリー2』のポスターが貼ってあった(Boyz II Menと98 DegreesとSalt 'N Pepaもあった)ことと、エマが『ボーイ・ミーツ・ワールド』を観てたことに一番テンションが上がってしまった。
 
ブコメーター(仮称)>>
共感度★★★★☆
キュンキュン度★★★☆☆
ドタバタ度★★★☆☆
定石通り度★★★★☆
ご都合主義ほど良さ度★★★★☆
オシャレ度★★★☆☆
カルチャーネタ満載度★★★☆☆
 
4.Marry Me(マリー・ミー)
 

 
なぜこのタイミングでこの設定なのか謎すぎるジェニファー・ロペス×オーウェン・ウィルソンの古風な格差ラブコメ。婚約者バスチアン(マルマ)と大スター同士ライブステージ上で結婚する予定だったキャットは、彼の浮気動画を直前に見てしまい、観客のチャーリーに咄嗟にプロポーズする。
 
予告編から想像するもの以上でも以下でもなかったけど、強引過ぎて何の説得力もないのにあるかのように錯覚させるストーリーと(ここまでは褒めてない)、シスター姿のダンサーたちと踊りながらChurch,Church,Church♪と連発するだけの曲の景気の良さに爆笑してしまった。
 
せっかくスペイン語をけっこう使っているのにマルマは今回悪役で、結局相手は白人というのがだいぶ残念。これまでのJLoのラブコメもぜんぶそうだ。しかもオーウェン・ウィルソンとは全然ケミストリーがない。
 
ブコメーター(仮称)>>
共感度★★☆☆☆
キュンキュン度★☆☆☆☆
ドタバタ度★★★★☆
定石通り度★★★★☆
ご都合主義ほど良さ度★★☆☆☆
オシャレ度★★☆☆☆
カルチャーネタ満載度★★☆☆☆
 
5.10 Truths About Love(原題)
 

 
Tubi(アメリカ版Gyao!みたいな広告付き無料配信サービス)初のオリジナルラブコメ。恋愛コラムニストのカリーナ(カミーラ・ベル)は自分の恋愛について書いているが、予期せずフラれてしまい…。
 
何のひねりもなくトンチキな楽しさもなく、主人公は可愛いが好きになれない。恋愛コラムを書いてるからといって自身の恋愛がうまくいくわけじゃない、なんて気づきをメインにもってくるな。
 
主人公がブラジル系で、両親とちょくちょくポルトガル語を使っていた。特にそれ以外大した文化を見せるわけでもなくさりげなさすぎるが、最近こうやって登場人物のバックグラウンドを見せる作品はよくありその傾向自体は良いと思う。
 
ブコメーター(仮称)>>
共感度★☆☆☆☆
キュンキュン度★★☆☆☆
ドタバタ度★☆☆☆☆
定石通り度★★★★☆
ご都合主義ほど良さ度★★★☆☆
オシャレ度★★☆☆☆
カルチャーネタ満載度★☆☆☆☆
 
6.Moonshot(原題)
 

 
『好きだった君へのラブレター』シリーズのラナ・コンドール×『リバーデイル』のコール・スプラウスのSFラブコメ。火星にも人が住んでいる未来、火星に行くことに憧れているが何度も選考から漏れている普通の大学生でバリスタ・アシスタントのウォルトは、火星のボーイフレンドの元に行くことにした優秀な理系大学生のソフィーに便乗して火星行きの宇宙船に忍び込む。
 
予告編からあんまり期待していなかったけど、案の定だめだった。ウォルトがウザくて好きになれないし、2人にまったくケミストリーがない。ソフィーを含む頭の良い研究者やエンジニアたちに対してウォルトがいかに“ふつうの人”かが何度も強調されるのに、ほかに違う良いところがあるわけでもなく、そのふつうさが良いんだ!みたいな雑な方向に持っていくだけでとても感じが悪い。
 
安っぽいCGばかりの映像と衣装で2人の魅力も引き出されず、可愛い瞬間はあるけれど、ピーター・カヴィンスキー助けに来てー!!と思いながらずっと観ていた(『好きだった君へのラブレター』参照)。宇宙ビジネスの実業家としてザック・ブラフが出てくるのだが、なんだか彼が演じる役として何の意外性もなく、コメディ的に面白い瞬間もなかった。
 
ブコメーター(仮称)>>
共感度★☆☆☆☆
キュンキュン度★★☆☆☆
ドタバタ度★★★☆☆
定石通り度★★★☆☆
ご都合主義ほど良さ度★★☆☆☆
オシャレ度★☆☆☆☆
カルチャーネタ満載度★☆☆☆☆
 
7.Starstruck(原題)シーズン2
 

 
ニュージーランド出身のローズ・マタフェオ脚本・主演、ロンドンが舞台の1シーズン6話のドラマ。映画館でバイトするジェシーはドラマ版『フォー・ウェディング』のニケシュ・パテル演じる大物俳優トムとたまたま一夜を共にする。その後お互い相手が気になるのになかなかくっつけない、古き良きスクリューボールコメディ。
 
主人公の親しみやすい可愛さときれいに撮れているHackneyの住宅街の魅力、テンポの良さで飽きずにビンジできるものの、会話が軽快でウマが合う以外はお互いの良さはあまり出ておらず正直ケミストリーは足りない。音楽に頼りすぎ感もある。
 
シーズン2は、シーズン1の土壇場無茶ハッピーエンド後の現実を時間を使って描く。勢いで相手を選んだはいいけどこれからいろんなことどうするの、というドタバタの中で嘘バレや海外出張話、池ダイブとお決まりのオンパレードは楽しい。でも主人公が成長したようで特にしておらず、やっぱちょっと説得力に欠けるなと思った。そしてシーズン2から登場のラッセル・トーヴィーの出番が足りない。
 
ブコメーター(仮称)>>
共感度★★☆☆☆
キュンキュン度★★☆☆☆
ドタバタ度★★★★☆
定石通り度★★★★☆
ご都合主義ほど良さ度★★★☆☆
オシャレ度★★★☆☆
カルチャーネタ満載度★★☆☆☆
 
8.Our Flag Means Death(邦題追加:海賊になった貴族)
 

 
デヴィッド・ジェンキンス企画・脚本、タイカ・ワイティティ出演・一部監督の10話のドラマ。予告編やポスターを見ただけではそうと分からないのでこれがラブコメだと言うこと自体がある種ネタバレかもしれないが、作者もハッキリ"Historical pirate rom-com"と言っている。(気にしない人だけ続きをどうぞ)
 
主人公は"The Gentleman Pirate"と呼ばれた実在の海賊スティード・ボネット(リース・ダービー)。貴族の生活を捨てて海賊船の船長となった彼は、野蛮な海賊たちにビビりながらも何とか彼らに順応しようとする一方で、字の読めない彼らに物語を読み聞かせたりする。いわゆる有害な男らしさの解体の話なんだな、と1話くらいの時点では思う。
 
話が進むと、ノンバイナリーの海賊がいることがわかったり(作中でその言葉は出ないけどインタビュー等で明言しており役者も当事者)、海賊同士でカジュアルに色目を使ったりイチャイチャしているシーンが出てくる。そして、ワイティティ演じる伝説の海賊"Blackbeard"ことエドワード・ティーチ(こちらも実在)とスティードがどんどん距離を縮めていくのがわかる。これはれっきとしたクィアブコメなのだ。
 
gayやqueerの文字もromantic comedyの文字も説明に含まずただコメディとして売り出していることは、他の作品だったら不親切・不誠実に感じたかもしれない。しかしこの作品はこれまでごまんとあったクィアベイト的作品ではなく、好意も接触もはっきり見せる。そこには、本来クィアなはずの海賊たちの物語を取り戻す意味合いもある。
 
これだけ良い意味で裏切られた作品は久しぶりで、『インベスティゲーション』で殺人事件の容疑者が登場するのをまだかまだかと待ち構えていたら出なかった時を思い出した。テーマの似ている『テッド・ラッソ』に求めていたことの一部をもっとずっとうまくやってくれた気もする。
 
フレッド・アーミセンやレズリー・ジョーンズ、ニック・クロールといったコメディアン勢ぞろいのキャスト陣を見てもわかるように、基本的にはめちゃくちゃゆるい。しかし簡単にはハッピーにさせてくれない。シーズン2が待ち遠しい。
 
ブコメーター(仮称)>>
共感度★★★★☆
キュンキュン度★★★★★
ドタバタ度★★★★☆
定石通り度★★★☆☆
ご都合主義ほど良さ度★★★★☆
オシャレ度★★★☆☆
カルチャーネタ満載度★★★☆☆