Coffee and Contemplation

海外ドラマや映画、使われている音楽のことなど。日本未公開作品も。

優しいロックスター×アルフィー・アレンは最強の組み合わせ

ブコメが好きで、いつかラブコメに出てほしいと思っている俳優が何人かいる。アルフィー・アレンもその一人だったが、ラブコメとはちょっと違うもののそれに限りなく近い作品にこんなに早く出てくれるとは思わなかった。ビーニー・フェルドスタイン主演『How To Build A Girl(ビルド・ア・ガール)』だ。
 
 
作家・テレビ司会者のキャトリン・モランの半自伝的同名小説が原作で、大家族でイギリスの片田舎の公営住宅に住み学校の友達もいない彼女が、若くしてNMEみたいな媒体でライターとして成功し、大人の世界で揉まれる様を描く。アメリカ人のイメージが強いビーニーがWolverhampton訛りを頑張って田舎の労働階級感を出している。実際街なかのギフトショップで働いて練習したらしい。(アクセントはイギリス人からは好評価だけではないっぽい)
 


キャトリン(今回の役柄ではジョハンナ)はフェミニズムについてのエッセイ本も出しているフェミニストで、日本では北村紗衣先生による『How To Be A Woman』の訳書『女になる方法 ―ロックンロールな13歳のフェミニスト成長記』が出ている。ビーニーの配役はご本人指名だったということからも分かるように本人も大柄で豪快な感じの人なのだが、その自己肯定的なマインドは女性作家の本をたくさん読んで育ったことで培われたらしい。ジョハンナの部屋にはジョー・マーチ、ブロンテ姉妹といった彼女のアイコンたちの写真が飾られており、アルフィーの姉のリリー・アレンエリザベス・テイラーマイケル・シーンフロイト医師、ジャミーラ・ジャミールがクレオパトラ役で壁面に登場する。
 
 
文才を買われ音楽業界に飛び込んだジョハンナだが、書くのはライブのレビューばかり。そんなジョハンナが初めてインタビューするミュージシャンがアルフィー演じるジョン・カイトだ。既に大物スターの設定だが、不慣れなジョハンナを叱ったり雑に扱ったりするのではなく、優しい眼差しで導いてくれる。キャトリン自身が若い時に、彼女を搾取せず友達になり守ってくれたロックスターたちがモデルだという。その一人はElbowのガイ・ガーヴェイで、ジョン・カイトの曲は彼が書き下ろしただけに限りなくElbowっぽい。アルフィーの歌声もぴったりで、いかにもこの時代のイギリスにいそうな感じになっている。
 
 
この作品のクリエイティブチームは全員女性で、アルフィーの母のアリソン・オーウェンもプロデューサー陣に入っている。しかしアルフィーをジョン役にプッシュしたのはキャトリンで、Glastonburyのバックステージで酔っぱらいながらもツイードのコートを着てカッコいい佇まいをなんとか維持していたアルフィーを見かけ、キャスティングは彼しかいないと決めたという。原作ではジョンは大柄の設定のため、当初はアルフィーに増量してもらう案もあったがボツになったらしい。
 


これまで私の中の理想の男性フィクションキャラNo.1は『Trainwreck(エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方)』でビル・ヘイダーが演じた医者のアーロン・コナーズだったのだが、ジョン・カイトはこれを塗り替えた。ジョハンナは若干16歳なので、ジョンは手を出したりしない。だから余計に2人のシーンが甘酸っぱい。ロックスターだからといって、女にだらしないクソ野郎である必要はないのだ。
 
対照的に、ウケるからとバンドをけなすレビューばかりジョハンナに書かせ、彼女をいいように利用するNME(もどき)の編集部。ジョハンナもセレブライター扱いされることに味を占めてしまい、危険な道へと進んでいく。酷評レビューがウケるというのが何とも彼の国っぽい。
 
16歳なのに…と終始ヒヤヒヤしてしまうが、半分実話だと分かっていることもあり決して説得力のない物語ではない。話はよくあるcoming-of-ageモノと言ってしまえばそれまでだが、ジョン・カイトの抱擁力と物憂げな佇まいだけでアルフィーのファンにはお釣りがくると言ってもいいと思う。
 
ジョハンナの兄を演じるのは、『England Is Mine(イングランド・イズ・マイン モリッシー,はじまりの物語)』ジョニー・マー役で『Derry Girls(デリー・ガールズ ~アイルランド青春物語~)』や『Des(デス)』にも出ているローリー・キナストン。父役のパディ・コンシダインもいい味を出している。NMEもどき編集部のクソ野郎には『Fear the Walking Dead(フィアー・ザ・ウォーキング・デッド)』のフランク・ディレイン(彼の実父は『Game of Thrones(ゲーム・オブ・スローンズ)』のスタニス・バラシオン役スティーヴン・ディレインだと後から知った)。エマ・トンプソンも出番はちょっとだが美味しい役で出てくる。
 
 
原作小説は続編が出ており、さらにジョンとの関係やBritpop時代の音楽業界のセクシズムを描くという。キャトリンが続編のサントラとして作っているプレイリストを見ると、これも映画化を願わずにはいられない。
 
 
続編映像化の予定ははまだなさそうだが、キャトリンのさらに若い時の話はChannel4で『Raised By Wolves』というドラマになっている(HBOの同名作品とは別モノ)。こちらは妹のキャロラインと一緒に脚本を書いたコメディで、お父さんやお兄ちゃんがいなかったり、代わりにおじいちゃんがいたり姉妹が増えていたりと設定が変わっているが、大家族であることに変わりはない。より健全で明るくて子ども向けにもいける『Shameless(恥はかき捨て)』といったところか。この主人公が後に音楽界で成功していくのだと思いながら観ると楽しい。