ジェイミー・ドーナンの天然キャラがハマり役、隠れたWTF案件『Wild Mountain Thyme』
予告編が公開されるやいなや、エミリー・ブラントとジェイミー・ドーナンのオーバーなアイリッシュアクセントがバカにされ、いかにもアメリカ人から見たステレオタイプなアイルランドの設定とベタそうなストーリーで早くもネタ化していた『Wild Mountain Thyme』。しかし、本編はそんなレベルじゃなかった。
舞台はアイルランドの田舎の農場。ローズマリー(エミリー・ブラント)は隣の農場に住む幼馴染のアンソニー(ジェイミー・ドーナン)に想いを寄せていたが、アンソニーはローズマリーのことが嫌いではなさそうなものの、なぜか避けている。アンソニーの父トニー(クリストファー・ウォーケン)はそんな調子で結婚する気配のない息子より、家族を持つ気のあるアメリカ人の甥アダム(ジョン・ハム)に農場を継がせると言い出す。農場の下見を兼ねてトニーの誕生日パーティーにアメリカから来たアダムはローズマリーのことが気に入ったようで…というのがあらすじ。
※ここから先はこの作品のどこがすごいのかを語るのだが、たぶんどこがすごいかなんてことを知ってしまうと意外性が半減するので(ネタバレはしないけど、あそこがすごいのか!と思いながら観るのと何も知らないで観るのとは衝撃が違うと思うので)それでも読んでくれる方だけどうぞ。
どこをどう切り取ってもベタベタのベタなストーリーなのだが、観始めるとどうも思ったよりかなりコメディの気配を感じる。最初からラブコメだと言ってしまっている媒体もあったのだが、多くはロマンスモノ、という感じの紹介だったので、ここまで笑えるとは想像していなかった。何より、登場人物たちがいたって真顔なのだ。真顔なのに、ジェイミー・ドーナンは一挙手一投足が面白可笑しい。常に困った表情で、金属探知機を持ってウロウロしているか、コケているか、雨に濡れている。ステレオタイプなアイルランド人を俯瞰して見ているアダムだけは、鑑賞者に近い立場かもしれない。
クリステン・ウィッグ&アニー・マモローの爆笑コメディ『Barb and Star Go to Vista Del Mar』にも出ていたジェイミー・ドーナンだが、そちらではこの真顔がこわばった感じに見えてしまって、天然キャラっぽい良さも出てはいたものの、アメリカンなコメディにまだ慣れずはっちゃけきれていないように感じた。しかし、こちらでは完全にそれが機能している。ドジでド田舎者で何を考えているか分からない真顔の天然キャラを完成させたのだ。
しかし、この作品がすごいのは、単に思ったより笑えたから、ではない。最大の分岐点は、終盤、何を考えているか分からないアンソニーがローズマリーに「何を考えていたか告白する」場面にある。私はさらに爆笑してしまったが、ポカンとあっけにとられる人もいるかもしれない。そんな爆弾を、この作品は真顔で落としてくる。後から振り返ると序盤からそこかしこに伏線はあるのだが、だからといってこの展開を予想できる人はまずいないと言っていい。
後から知ったが、これは舞台作品をその作者自らメガホンを取って映画化したもので、監督のジョン・パトリック・シャンリィはトニー賞やピューリッツァー賞も受賞している実力者らしい。The Irish Timesは舞台の方をこき下ろしていたが、この記事によると衝撃のシーンは原作から変わっていない。アメリカのメディアでは概ね好評だったようだが、劇場では一体どんな反応だったのか、こんな展開でも演劇なら真面目に捉えられるのか爆笑の渦だったのか、気になってしょうがない。